見えない水素の動きを捉えた 関場講師ら

 水素原子はさまざまな材料に侵入しやすい性質を持ちます。隙間の大きな場所を好み、金属中では母体格子で囲まれた四面体サイト(T)や八面体サイト(O)を占有しながら拡散することが知られています。水素の運動を理解するには、量子力学的な取り扱いが欠かせません。質量が小さい水素は、電子同様に波としての性質を示し、低温では量子トンネル効果による拡散が顕著になると考えられています。このような水素の量子的挙動を理解することは、水素生成や水素貯蔵技術の発展のみならず、原子核の運動の本質解明に不可欠です。

 しかし、水素原子は軽くて小さいため直接観測することが難しく、特に低温での拡散計測は困難でした。そのため量子的な拡散現象はこれまでほとんど報告されていません。水素原子の「位置」と「移動」を低温で検出することが、水素拡散における量子的性質を観測するための鍵となります。さらに、量子トンネルの機構を解析するには、詳細な温度依存性のデータ取得が欠かせません。

 関場講師らは、独自に開発したチャネリング共鳴核反応法を用いて水素位置の解析を行いました。水素吸蔵金属 Pd に 50 K 以下の低温でイオン照射により非平衡的に注入された水素原子は、最安定な O サイトだけでなく、準安定な T サイトを占有することを明らかにしました。さらに、T サイトに置かれた水素は徐々に最安定な O サイトに移動することを見つけました。本研究では電気抵抗に着目し、占有サイトによって電気伝導度が異なることを見出しました。

 本研究成果は、水素拡散の量子的性質の理解を深めるとともに、水素生成や貯蔵技術の発展や原子挙動の量子的制御技術の開発に貢献することが期待されます。