常温・常圧下での可視光照射で水素放出できる層状水素化シリカン 大木助教ら
脱炭素化の推進に向けた⽔素エネルギーの普及には、⽔素を安全に貯蔵・運搬でき、かつ低エネルギーで放出できる⽔素キャリアの開発が求められています。⼀般的に⽔素キャリアとして⽤いられる⾼圧⽔素ガスボンベは、⽔素貯蔵密度が低い上に、爆発や⽕災のリスクが伴います。液体⽔素キャリアとして知られるアンモニア、ギ酸、有機ハイドライドなどは、毒性や腐⾷性に加え、⽔素放出に⾼温の加熱⼯程が必要であることが課題となっていました。また、固体⽔素キャリアである⽔素吸蔵合⾦は、質量⽔素密度が低く、軽量での貯蔵・運搬には⼤きな課題がありました。⼀⽅、⽔素とケイ素が 1 対 1 で結合した層状物質である層状⽔素化シリカン(HSi)は、⽐較的⾼い質量⽔素密度(3.44%)を持つものの、これまでは主に電⼦材料や電池材料としての応⽤研究が中⼼でした。今回の研究では、層状⽔素化シリカンを⽔素キャリアとして活⽤する上で重要な「光による脱⽔素プロセス」に着⽬し、詳細に評価しました。
大木助教らは、層状⽔素化シリカンが、600 nm 以下の可視光照射によって⽔素を放出できることを明らかにしました。特に、太陽光スペクトルの中で強度が最も強い波⻑域である 550 nm では、⽔素放出の内部量⼦収率は 7.3%に達しました。⽔素放出に必要な光強度の閾値は存在せず、⽔素放出速度は光強度に対して線形に増加しました。疑似太陽光照射で⽔素が放出されるだけでなく、より光強度の弱い⼀般的な⽩⾊ LED 照明や緑⾊ LED を⽤いても脱⽔素することが確認されました。これらの結果から、微弱な光環境下でも⽔素放出が可能であることが⽰されました。また、⽔素放出のメカニズムを検証したところ、光励起により⽣成した電⼦が層状⽔素化シリカン⾃⾝の⽔素イオンを還元することによって⽔素を放出していることが分かりました。層状⽔素化シリカンが保持する⽔素量を100%とした場合、可視光照射によりその 46.7% の⽔素を放出できることが明らかとなりました。
現在、⾃動⾞をはじめとするモビリティ分野で⽤いられている⾼圧⽔素ボンベでは、安全性や重量の課題が指摘されています。本研究で⽰した「可視光で⽔素を放出できる固体材料」は、そうした課題を克服する可能性があります。安全かつ省エネルギーに扱えるポータブル⽔素キャリアの実現につながる成果であり、将来的には、⽇常⽣活から産業利⽤までのさまざまなシーンでの利⽤が期待されます。


