鉄酸化物薄膜作製中にリアルタイムでその性質を解析する技術を開発 柳原教授ら

 金属の酸化物や窒化物の薄膜は、スマートフォンや自動車に使われる電子デバイス、太陽電池やセンサーなど、私たちの生活を支える幅広い技術に利用されています。これらの薄膜を作製する代表的な方法の一つが「反応性スパッタ法」です。これは、ターゲット金属に対してアルゴンなどの不活性ガスと酸素などの反応性ガスを加えてプラズマ中で金属から原子を叩き出し、基板上に薄膜を成⻑させる方法で、産業界でも広く用いられています。しかし、反応性スパッタ法は、ターゲット表面が金属状態と化合物状態の間を移行するため、膜の成長速度や組成が大きく変動し、同じ条件でも膜質が再現しにくいという課題があります。特に、成膜中に材料の化学状態や堆積速度をリアルタイムに把握する有効な方法は限られていました。

 柳原教授らは、反応性スパッタ中に発生するプラズマの数百本以上の発光スペクトルに対して、主成分分析という機械学習手法を適用し、形成中の薄膜の状態を解析しました。その結果、スペクトルの第一および第二主成分のみから、鉄酸化物薄膜の価数状態を正確に識別できること、また、膜の成長速度を高精度に予測できることを実証しました。本手法は、特定の波長のスペクトル光線や水晶振動子ではなく、全波長情報を活用する点が大きな特徴です。さらに、それぞれの酸化物相を特徴付ける主成分の組み合わせから、価数状態に対応する代表スペクトルを再構築でき、物質同定に有効であることが示されました。

 本研究結果は、これまで困難だった成膜プロセスの「見える化」を実現するものであり、複雑な反応性スパッタのプロセスをリアルタイムで理解・制御する新しい道を開きます。原理的には、他の酸化物や窒化物薄膜の製造にも応用でき、高品質なデバイス製造技術への展開も可能です。