光誘起相転移の“ゆりかご”を発見! 所教授ら

 光は、物質の色、磁性、電気伝導性などの物性を、1兆分の1秒以下の極めて短い時間スケールで制御できる強力な外部刺激であり、次世代の光デバイスや量子機能材料の基盤技術として注目されています。特に、光照射をきっかけとして物質全体の状態が切り替わる「光誘起相転移」は、光メモリや光スイッチング素子などへの応用が期待される重要な現象です。しかし、光によって生じる量子力学的な電子励起が、どのようにして結晶構造の変化や熱力学的な相転移へと発展するのか、フェムト秒オーダーからの詳細なメカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。これは、電子・原子レベルの超高速現象と、結晶全体の協奏的な構造変化が、時間・空間の両面で多段階にわたって進行するのを単一の実験手法で同時に捉えることが極めて困難であったことに起因します。

 所教授らは、スタンフォード大学の超短波長X線パルスを生成するレーザーを活用し、光照射下でX線吸収分光とX線回折をフェムト秒分解能で同時モニタリングする手法を世界で初めて確立しました。本研究では、光応答性材料として知られ、電子状態の変化に伴って大きな体積変化と対称性変化を示すルビジウム-マンガン-コバルト鉄プルシアンブルーの一種に着目し、光誘起相転移に至る全過程を直接観測することに成功しました。

 本研究は、超高速の光誘起相転移が単一の瞬間的な現象ではなく、電子励起、局所構造変化、弾性歪み、相の核生成と成長が段階的かつ協奏的に進行するダイナミクスを、時間軸に沿って全て明らかにした初めての例です。特に、光によって生成されるゆりかごというべき存在の電荷移動ポーラロンが、内部圧力源として機能し、結晶全体の相転移を駆動するという新しい概念は、これまで未解明であり、光誘起相転移現象の根本原理を理解する上で重要な知見です。

 本研究成果は、光書き込み型メモリ、光スイッチングデバイス、フォトニック・量子デバイスなどへの応用に向けた材料設計指針の確立に大きく貢献すると期待されます。また、さまざまな光機能性材料へ研究を展開することで、「光で物質を自在に操る」技術の実現が一層加速すると考えられます。